是非、皆さんに読んでいただきたい1冊

白石一文『彼が通る不思議なコースを私も』(集英社)

発達障害の関係者にとって、市川卓司という小説家は貴重な存在である。
作家としては、ベストセラー『いま、会いにゆきます』(小学館)、最新作の『こんなにも優しい、世界の終わりかた』(小学館)で知られ、私のホームページでも何度か紹介している。
彼のもう一面、彼自身が発達障害であることを公表しており、当事者としてメディアにも出演している。
これまで、発達障害を軸に、彼とは何度か対談し、知己を得ている。
その彼と数か月前、ある出版社で対談したとき、彼の親しい友人、発達障害仲間として白石一文氏の名を聞いた。
以来、私は白石氏の作品の追っかけとなった。
その白石氏の最新作が『彼が通る不思議なコースを私も』である。

主人公、椿林太郎と澤村霧子の恋愛小説であり、二人が合コンで再会した泡沫の一夜の夢の形を取る純文学でもある。
林太郎は極めて優秀であるが、同時に極めてユニークな生き方を選ぶ。
仲間たちの誰よりも受験エリートでありながら、私学の教育学部を選び、教員への道をひた走る。
それは彼自身がADHDで苦しみながら、ある時点でそれを乗り越え、一気に能力の開花を経験したことから、同じような子どもたちを救いたいという強い信念がそこにあるからなのだ。
古い小学校文化のなかで、彼は一介の塾教師の道を選ぶ。それも結婚を間近に控えてである。
彼に揺らぎはなく、霧子はより困難な道を迷いなく選ぶ林太郎に戸惑う・・・

この小説のなかでは、LDやADHD,それに学校で彼らを支援する特別支援教育士のことが正確に記述される。
LDや発達障害の啓発をライフワークにし、日本LD学会(今日会員8000人という、心理・教育界の3本の指に入る大きな学会)を設立し、特別支援教育士「S.E.N.S」(今日、4000人の専門家養成を行い、彼らは学校・相談機関で活躍している)を発想し、育ててきた私としては、一般の小説家がこのような専門知識に基づいて登場人物に発達障害を想定しているのは、宮部みゆきの『模倣犯』(新潮文庫)、石田衣良の『少年計数器-池袋ウェストゲートパークⅡ』(文春文庫)以来である。

臨床心理士を扱ったものは珍しくないが、発達障害のある子どもをS.E.N.Sの資格のある教師が関わる話は、小説では初めての経験である。
専門用語が教育用語に、教育用語が日常用語へと広がっている歴史的現実をここに見る。
是非皆さんもこの魅力的な椿林太郎を味わっていただきたい。

2014年6月25日 09:12 | | コメントを読む (0) | コメントを書く


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